【若女将アッコのきもの白熱教室】 型紙がなければはじまらない⁉︎ “伊勢型小紋”解体新書
いよいよ明日から開幕!
若女将アッコのきもの白熱教室
テーマはリクエストが多い伊勢型小紋
この記事は
- きものに興味のある方
- イベントの前に伊勢型小紋を
ちょっと知りたい
という方のために書いており ちょっと難しいです。。
そして今回の特別ゲストはこの方
伊勢型小紋伝道師で伊勢型紙プロデューサー
田中誠さん
・伊勢型紙ってどんなもの?
・どのように彫られている?
・産地ではどんな課題がある?
今日の記事では伊勢型小紋を染めることについて
誠さんからうかがったお話をお伝えしたいと思います。
もくじ
重要なのは“伊勢型紙”
伊勢型小紋は型紙を使って染める型染めです。
伊勢型小紋を染めるための型紙は
『伊勢型紙』
『いせかたがみ』と読みます。
伊勢型紙 実物↓
近くによってみるとこんな感じ
この伊勢型紙を使って13mのきものの反物を染めていきます。
伊勢型紙が伊勢型小紋の主役と
言っても過言ではないですね。
伊勢型紙の産地
もともと伊勢型紙は三重県、
鈴鹿市白子町(しろこちょう)と鈴鹿市寺家町(じけちょう)で
作られていたものです。
どちらも古くから伊勢参宮の街道筋として、
江戸時代は紀州藩の庇護を受けて発展してきました。
『定め小紋』として各藩が裃の柄を指定し
柄の文様や細かさを競ったことから伊勢型小紋が全国に広がっていきます。
白子・寺家町とも伊勢型紙の産地として発展してきました。
鈴鹿市白子町には伊勢型紙資料館があり
型紙の展示を見ることができ職人さんからお話を聞くことができるようです。
伊勢型紙資料館 鈴鹿市ホームページ↓
伊勢型紙の彫り方
ひとくちに“型紙を彫る”と言ってもいろいろな彫り方があり、
柄どのようにを表現するかで彫り方が変わってきます。
代表的な彫り方をご紹介します。
突彫(つきぼり)
突彫は やや大柄の文様を彫るのに向いている彫り方です。
展示会資料より
彫る道具には細長い三日月型の小刀を使います。
地紙を何枚か重ねて“穴板”という専用の道具の上に置き、垂直に突くように掘り進めていきます。
錐彫(きりぼり)
錐彫は丸い小さな穴を無数にあけてあらゆる柄を表現していきます。
半円型の刃先の小刀を使います。
この刃先を回転させながら彫り出される“てんてんつぶつぶ”により柄を描いていきます。
“小紋三役(こもんさんやく)”と言われる
- 鮫小紋
- 行儀小紋
- 通し小紋
伊勢型小紋を代表するこの柄は錐彫で彫られています。
伊勢型紙ではもっとも古くからある彫り方です。
こちらは型紙の写真ですが、
人間国宝 六谷梅軒さんの“錐通し”の伊勢型紙
お名前(本名)のサインと型紙のアップです。
柄は“てんてんつぶつぶ”が縦にも横にも
一列に整列している
非常にシンプルなお柄です。
シンプルな分、
ごまかしが全くきかない!!!
伊勢型紙のなかでも究極の柄だといえます。
道具彫(どうぐぼり)
道具彫は小刀の先が花・扇・菱などの形に作られているものを
突いて掘り抜く技法です。
伊勢型小紋 染め袋帯
道具の出来栄えが型紙の出来栄えに直結します。
道具彫りの彫り師さんは刃先の形や大きさを変えながら生涯でなんと
5000本の彫刻刀を作られるそうです!
縞彫(しまぼり)
縞彫は髪の毛ほど細かい筋を何百本も彫って、
こまかーい‼︎の縞柄を作ります。
展示会資料より
縞柄の伊勢型小紋は『縞に始まり縞に終わる』と言われるほどツウ好みの図案。
以前は金尺一寸約34センチの間に30本の縞を彫る…
つまり、
“1ミリの間隔のなかに線と空間がある”状態なのですが
そのような細かい縞の型紙を彫られる職人さんもおられました。
型紙を彫る道具について
伊勢型紙を彫るには彫りたい柄によって小刀を使い分けています。
この小刀、型紙を彫る職人さんの“手づくり”
伊勢型紙を彫る仕事は以前は“一子相伝”
代々、父から子へ受け継がれてきました。
家々で彫る柄が決まっており
錐彫りの職人の家に生まれたら子供も錐彫りを受け継ぎます。
錐彫りのお家に生まれて『オレ、縞が好きだから縞が彫りたい!』
と思ってもそれは叶わないのです。
職人さんの見習いになって親方のもとで初めて取り組む仕事は
自分で使う道具を自分で作ることなのです。
型を彫る練習ではないのですね!
伊勢型紙が昭和30年に重要無形文化財に指定され
6名の職人さんが重要無形文化財保持者
いわゆる人間国宝として国から認定されました。
それは各職人さんおのおのが
自分で道具を作り型紙を彫る工程までを
すべて自分でやることを評価されてのことだそうです。
“伊勢型小紋”
わたしが感じた今後の課題
伊勢型小紋はフォーマルにも盛装にも使えて
非常に重宝するおススメの一枚です。
ここからは先日、
私が京都で取材をさせていただき感じたことを書きたいと思います。
それは職人さんの手仕事による作品が
絶滅の危機に瀕している。。
ということです。
伊勢型小紋は細かい図案ですと
3センチ四方に小さな点が900個で柄ができています。
型紙を彫ることを担当する職人さんの手で彫られた型紙を使い、
その型紙を使って生地に染めることを担当する職人さんの一反ずつ手で染めていく、そうして一枚の江戸小紋ができあがります。
そうして出来上がった小紋はとてもきれいに染めてあるのですが
着物として着たときにペタッと平面的ではなく
独特の“ゆらぎ”のようなものがあると思います。
不思議なのですが、
実際着てみると着る方それぞれによって浮かび上がるイメージが変わります。
多くの職人さんが携わって作られた江戸小紋は
とてもシンプルなのですがきものの柄や色に奥行きがあり
飽きがこないものだと思います。
六谷梅軒さん “極微塵鮫(ごくみじんざめ)”
人の手で彫られた型を使い人の手で染められたものは
見る人の眼に自然にうつり違和感がまったくないと感じます。
なかなか写真だけでお伝えすることは
難しくもどかしいのですが。。
一方で
技術が進んだ現在ではフィルムで作られた型紙や
シルクスクリーンで染めた伊勢型風 型染め小紋もあります。
市場に出ている多くは機械やフィルムで
染められたものの方が多い…と言っても過言ではない時代です。
これらは
機械の力を借りて彫ったり染めたりするので
寸分違わず“きれい”に染まっています。
型紙だってフィルムのようなものなので染めても傷むことはなく
長期間にわたり使うことができます。
が!
機械で染められたもの、フィルムの型紙で染められたものには
完璧できれいすぎるせいか…
ゆらぎとか
雰囲気とか
色気とか
大人の女性こそ着こなせるような
間合いやニュアンス
そういう絶妙な表現が感じられないのです。泣
人間の手だからこそ人間の手でしか生み出せない
- 質感
- 空気感
- 存在感
これらを放つものを作ることができなくなってきていること。
これがもうすでに待ったなし!というタイミングにきている。
これらを感じずにはいられませんでした。
今回特集する伊勢型小紋は大変悲しいことですが…
伊勢型紙を彫る職人さんの後継者の方が
大変少ない。。
もしくは
後継者が全くいない。。
ということが今後の課題として挙げられます。
錐彫の二代目六谷梅軒さんは現在84歳。
人間国宝だった先代のお父さまのお仕事を継がれていらっしゃいます。
ただ今後、
この細やかで繊細な素晴らしい技術を継ぐ後継者の方はおらず、
二代目六谷梅軒さんが引退されるとその時点で二代に渡って彫った
錐彫りの伊勢型紙は絶えてしまうのだそうです。
しかもこの型紙、
和紙でできているため永久的に使えるものではなく
一枚の型紙が染められるのは平均して50反から80反。
多くても100反です。
染めていけばどんどん磨耗しいづれは朽ちて破れてしまいます。
手で彫った伊勢型紙で小紋を染められなくなる日は遠い将来ではなさそうです。
伊勢型小紋の消滅はまさに時間との戦い。
『いまの努力は、今後伊勢型小紋を続けていくための努力ではなく、
染めることができなくなってしまうことを
少しでも後に遅らせるための努力なのです。』
という言葉を誠さんからうかがい
私のなかでは消えかかる蝋燭の炎のようなイメージが湧いてきてしまい…
悲しさややるせなさと共に自分の無力感を感じました。
ただ一方で目の前にある現状は大変悲しいことですが、
『これが伝統工芸品を扱うものの現実なのだ…』
ということを時代の流れと共に受け入れていく覚悟をしなければならないのだと思いました。
今回は
- 六谷梅軒さん
- 中村勇二郎さん
- 南部芳松さん
三人の人間国宝により彫られた型紙で染められた伊勢型小紋を中心に出品します。
これらは今後見たくても見られないたいへん大変貴重なものになっていくと思います。一人でも多くの方にその素晴らしさを見て感じていただけたら嬉しいです。
【こぼれ話】型紙を彫る和紙について
型紙に使う和紙は特殊で“地紙(じがみ)”と言います。
①楮(こうぞ)を原料とした手すきの和紙
↓
②柿渋で縦横を違えながら3〜4枚貼り合わせる
↓
③天日で乾燥させる
↓
④煙で燻す
↓
⑤寝かす
という
細かな工程を経て一枚の型紙用の紙を作ります。
寝かすと一口に言っても
最低3年理想は10年以上。
この段階になりようやく型紙を彫る職人さんの手元にやってきます。
錐彫や縞彫を彫る職人さんはこの和紙を
なんと8枚も重ねて彫っていくのです!
時間をかけて寝かすのは
和紙の伸縮によりおこる
型紙の縮みや歪みをなくすためです。
ひとくちに和紙といっても一枚作るためには
とても手間や時間がかかることですね。
伊勢型小紋の需要の先細りと共に
いまはこの和紙を作ってくださる職人さんも廃業が続いています。
型紙を彫る職人さんとその技術の保存と合わせて、
和紙や作ってくださる職人さんと
そのお仕事の確保も今後の課題なのだそうです。
いかがでしたか?
後半は重い話になってしまいました。
最後まで読んでくださり本当にありがとうございます!
和装だけに留まらず
“伝統工芸”として受け継がれてきた“もの”や“技術”は
どの分野でも消えつつあることを感じずにはいられません。
細やかで繊細な感性を持つ日本人だからこそ
作ることができるものが多いのです。
しかし、
時代の流れと共にそれらは生活の必需品ではなく
需要がなくなりつつあります。
技術の発展と共に大変便利な世の中となりましたが
便利すぎて時間が流れるスピードが早すぎて
アナログ世界の住人である若女将アッコは
正直、戸惑ってしまうことが多いです。。苦笑
今年はもう少しゆったりと時間や季節の流れを
味わってみたいなぁ…と節分を過ぎて思うこの頃です
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