【若女将アッコの染織研究】友禅染めの工程 全て見せます!その② 《着こなしの要・地染め編》

友禅染め

言葉では聞いたことあるし、何度かきたことがあっても
実際にどんな工程を経て自分の手元に届くんだろう・・・

着物が好きな方はそう思われる方が多いですね。

若女将アッコ

私は結婚するまで名古屋友禅を5年ほど習っていました。

この記事ではその経験をもとに
友禅染めの工程を深く、わかりやすくお伝えしたいと思います。

私が個人的にが見どころ!と感じるマニアックなツボ(⁉︎)も一緒にご紹介できればと思います。

この記事はきものに興味のある方むけて書いています^^

全て見せます!友禅染め10工程 PART2

小見出しで既に驚かれる方もいらっしゃると思いますが
友禅染めの反物をみなさまに見ていただくためまでには
少なくとも10の工程を経ています。

今回は現在主流になっている糸目糊にゴムの糊を使った工程をご紹介します。

  • 図案作成
  • 下絵
  • 糸目糊
  • 伏せ糊
  • 引き染め(地染め)
  • 蒸し・水元
  • 色挿し
  • 蒸し・水元
  • 金箔加工
  • 刺繍
若女将アッコ

手描き友禅の全ての工程は
全てが分業制になっているのが特徴です。

なので、
工程全てに専門の職人さんがおられます。

それでは、
ひとつづつどんなことをしているのか見てみましょう!


⑤地染め から ⑧蒸し・水元までをご紹介・・・
と思ったのですが、

やはり地色を染める工程はお伝えしたいことが多いので
⑤地染めと⑥蒸し・水元とします。

なお、
①図案 から ④糊伏せまでも気になる方はあわせてこちらの記事もご覧ください。

⑤地染め(引き染め)

この『地染め(引き染め)』の工程で初めて色が登場します!

この地染めでは、
着物のベースになる色、地色(じいろ)を染めていきます。

着物すがたというのは
顔と首、手以外
全て布地で覆われている衣裳です。

そのため、着物の地色の色味というのは

  • 似合っているかどうか
  • 色が影響してお顔がどう見えるか

など
きもの姿全体の印象に大きな影響をあたえますので、
丁寧に染められたものをオススメします。

さてさて、工程の紹介に戻りましょう。

伏せ糊が終わった生地に色をのせていく工程を
『地染め(じぞめ)』
または
『引き染め(ひきぞめ)』
といいます。

引き染め(地染め)は、

生地に染料液を刷毛で均一に、またはぼかして染色する工程です。

引染は生地全体を通して染色することが多く、
最も広い面積を染色するので、
手描友禅工程の中では、挿し友禅(さしゆうぜん)と並んで重要な位置を占める工程といえるでしょう。

京都工芸染匠協同組合ウェブサイトより

手描き友禅で色彩を担当する工程はやはり花形ですね!

この引き染めの工程では柄以外の部分を染めます。
染める工程のなかで地染めの担当の職人さんがイチバン多くの面積を染めます。

写真でみて
黄色い部分が柄、
白いところが地色
になります。その白い部分を染めていきます。

染めるときは
染色用の刷毛(ハケ)を使います。

 

その際、
一反 約13メートルの長さの生地を伸子(しんし)という特殊な道具を使ってピンと張ります。

 

生地の幅は40センチ弱あるのですが
生地の端に伸子の先についている針を挿してピンと張ります。

 

生地の右から左にむかって同じ色になるよう
刷毛を動かしながら染めていきます。

 

若女将アッコ

13メートルの生地を色むらなくハケで染めていくって・・・ 実際は大変なお仕事です。

手早く染めないと最初に染めたところがどんどん乾いてきて染ムラになってしまうので

とにかく早く!
均一に!

という技術が求められます。

だいたい左手で生地を押さえながら指に染料の入ったバケツを下げておられることが多いので力仕事でもあります。

また、暑い季節、エアコンの風は染ムラの原因になりやすいので、

・エアコンをかけない
・十分エアコンをかけて部屋を冷やしておいて
 染めるときはエアコンを切る

など工夫されていると聞きました。

お客さま

若女将も友禅を習っていたとき
この作業したの?

若女将アッコ

私がお稽古していたときは
この引き染めの工程は専門の職人さんにお願いしていました。


一度、水色の薄い色を試しに染めさせていただいたことがあるのですが・・・


長さ80センチぐらいでも全然きれいに染まりません!(泣)刷毛にどれぐらい染料を含ませる量
なども難しかったです。。


なので、13メートルを同じ色で均一に刷毛で染めるって『神』だな…と思ってしまいます。

ちなみに、反物一反染めるためには約1.8キロの染料を必要とします。

 

そして、
染めるのは表からだけではなく・・・

 

このあと
裏面からも染料液を含ませない刷毛で引き、
裏まで均一に色を定着させます。

 

この“裏なで”という作業は中間色から濃色に染める場合は大切です。
濃い色に染める時は通常、“表なで”と“裏なで”を最低2回ずつは繰り返し行います。

 

表と裏をひっくり返しながら 刷毛のあとが出ないように
全体の色が均一になるよう整えていきます。

 

引き染めが終わったらそのまま自然乾燥させます。
特に濃い色は色が定着させるためにできるだけ時間をかけてしっかり乾燥させます。

 

自然乾燥というのが大切で
仕上がりを慌てたり、時間を短縮しようと機械の力を借りると
風で染めむらができたり、色がしっかり定着しない、ということになってしまいます。

 

着物のものづくりに共通することは
弱いチカラでコツコツと積み重ねていくことが大切なんだと感じます。

どうしても
一度で染める!とか
一気に乾かす!とか
重視のこの現代社会では思わずチカラ技や要領を考えがちですけど


弱いチカラでコツコツと重ねていくことほど
『きれいにできる』
『しっかりできる』
『仕事に厚みがでる』
という仕上がりに繋がっていくのだな・・・と実感しますね。

きれいに染めるための努力や工夫には
本当に頭が下がります。

色の調合について

染料は職人さん自身がが混ぜ合わせて作ります。
もともとの色数は、7~8色が標準です。

 

色合わせはできるだけ、少ない色数でイメージする色を調合することを考えておられるそう。


これは、
混ぜる色が少ない方が
明るく、鮮やかでくすみのない色ができあがるからです。

 

逆に混ぜる色が増えるにしたがって
色の明るさ(明度)・色の鮮やかさ(彩度)がなくなってしまい、くすんだ色になっていきます。

 

上手な職人さんを抱えている染屋さんはやっぱり色の出し方がきれいです。


特に中間色の地味になりがちな色でも
決して地味ではなく、情緒というか雰囲気がある色に仕上がってきます。


50代ぐらいからの大人の女性しか着こなせないような絶妙な色をだしてくれます。

ただ、
不思議なことに同じ生地に、同じ量で調合した染料で染めても
気温や湿度によって微妙に色が変化する、ということがあります。


そこが手仕事の面白さであり、難しさなんでしょうね。

 

 

地染めの前にする“地入れ”

実は、地染めの前にひとつしていることがありまして・・・
それは“地入れ(じいれ)”という工程です。


地入れの目的は

  • 染料を生地に均等に浸透しやすくする
  • 染料が伏糊の内側ににじみ込むのを防ぐ
  • 染めむらが出にくいようにする

この3つがあります。

 

地入れ液は
豆汁(豆乳を薄く薄めたようなもの)と“ふのり”をとかした液体を混ぜます。

ふのり↓


田中直染料店ウェブサイトより

 

地入れも染料同様に刷毛に含ませて均一になるよう引いていきます。

地入れ液は
・淡い色を染める場合はふのり液を多く
・中間色から濃い色に染めるにしたがい豆汁を増やす

と豆汁とふのりの量を調整しています。


作品が出来上がったときに目に見えてわかる工程ではないのですが、ひとつの着物をより美しく染めるための工夫なんですね〜

⑥蒸し

地色の染めができたらまずこの色を生地に定着させるため、
100度の蒸気で20〜50分間 蒸します

 

蒸すことで

  • 熱のチカラで繊維にしっかり色が定着させる
  • 蒸気と100度以上の熱を使って発色をよくする

という効果があります。

 

黒・紺・紫などの濃い色は
この“蒸し”の作業を2回繰り返します。

濃い色ほど、引き染めや蒸しの手間がかかります。

 

⑦水元

柄の部分に色を挿していく前にもうひとつやることがあります。

それは
水元(みずもと)

↑工場の中に作られた川のような設備

 

ひとことでいうなら『水洗い』の工程ですね。
水元をすることで生地についているいらないものを取り除きます。

 

①糊を落とす

引き染めする前に柄を伏せた『伏せ糊』

この後、
柄に色を挿していくのでこの伏せ糊とおがくずを洗い流します。

②余分な染料を洗い流す

蒸すことで生地に色(染料)を定着させたものの、
実際は目に見えないぐらいわずかですが、余分な染料が生地にまだ残っています。
それを水元で完全に流してしまいます。

 

③水元には良質な水がたくさん必要!

『友禅というのは良質な水湧き出るところでないとできない』
といわれるのはこの水元の工程があるからといっても過言ではないほど!

 

京都で友禅が発展したのは良質な地下水がたくさん湧き出るからと言われています。

 


地下水は

  • 季節を問わず水温が約18度と一定
  • 天然の湧き水なので水質が一定。
    塩素など余分なものが入ってない
  • コストがかからない

というメリットがあります。


特に
水質が一定というのは大事な要素です。

水道水には塩素や鉄分が混ざっていますが、
どちらも染料と化学反応を起こして色素の発色を妨げるからです。


塩素は灰がかった色味に発色しますし、
鉄分は赤みがかってしまいます。

蒸しも水元もなかなか知られることのない作業ですが、このふたつがないときれいな発色にはならないのですね。

どちらが欠けても着物や帯は出来上がらない。
縁の下の力持ちのような工程です。


いかがでしたか???

  • 地染め(引き染め)
  • 蒸し
  • 水元

という3工程をご紹介しましたが
みなさんの想像以上にたくさんの工程があったと思います。

 

ひとつの作品を生み出すにも『完成度の高いものを作りたい!』と
細部に渡って手を抜くことなくお仕事をされている職人さんには
本当に頭が下がる思いです。

 

このような細かい工程の積み重ねは
繊細で手先が器用で真面目な日本人だからこそできるのだと思います。


次の特集ではいよいよ色挿しをお届けしたいと思います。

なお、
①図案 から ④糊伏せまでも気になる方はあわせてこちらの記事もご覧ください。